ちんたら療養日記4 

南の国からこんにちは

幸福な戦慄

お久しぶりです。

今まで何度もここで書かせてもらってる作家さんですが。

開かせていただき光栄です―DILATED TO MEET YOU― (ハヤカワ・ミステリワールド)/皆川 博子

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もうね。あのね。絶句ですよ私。

なに、この、ものすごいバランス感覚。

サスペンス風でもあり、歴史小説風でもあり、ヨーロッパが舞台のある種の独特な空気感もあり…

もう、すごいです。

なんというか、舞台は、18世紀イギリスのロンドンなんですよ。

だいたいですね、18世紀って…ふつう、ないでしょ。

だいたい、ヴィクトリアン以前のイギリスの風俗なんて、

みなさん知ってます?知らないでしょ。あたしもよく知りません。

んで、主軸になるのが、解剖学教室。

もう、この時代の解剖学教室なんて、鼻つまみ者だし、医学じゃないし。

それでいて、プラス、殺人事件ですよ。

もう、それだけでも、障壁ありすぎでしょう。

なのに、それだけじゃないんです。

その事件でキーになるのが、なんと、古典詩ですよ。

ラテン語!しかも、隠喩が山ほど。

もう、ネイティヴだって描けませんよ。

それが、皆川氏は、実にさらりと描かれる。

うーん、うまく言えないんですけど、要はこうです。

ミステリーとしても、一流。謎が謎を呼んで、最後まで読者を飽きさせない。

それでいて、サスペンスとしても、一流。緊張感が、読了まで続くんです。

それだけでなく、ヨーロッパの歴史ものとしても、一流。

行ったこと、もちろんないですよ?でも、当時の埃っぽくて雑然とした、

それでいて現代に通じる無機質な大都会とは一線を画する、

「18世紀ロンドン」の姿かたちだけでなく、むせ返るにおいや騒然とした音までもが、

立ち上ってくるんです。

3Dなんて、真っ青です。

そして何より、事件のキーを紡ぐ、古典語の繰り広げる、

(知らない者には)謎と神秘漂う、隠喩にまみれた文語世界。

この世界の美しさ、得体のしれない淫靡さ。

それでいて、そこの美しさ、底なしなずぶずぶ感に浸りきらずに、

潔いほどにあっさりと割り切った描写。

それこそが、この作品を、ただの娯楽作品と一線を画す最大の要素になっていると思うのです。

なんというか、この、一ミリのずれも猶予もない、完璧な物語世界。

溜息が出ます。

本当に。